経済情報秘密保護法案 (重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案) について、参議院での徹底的な審議をつくし廃案にすることを求めます。
署名提出についての詳細な理由(具体的な問題点)
1.市民の知る権利、報道の自由を侵害するこの法案(重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案)は、日本の市民社会の自由を脅かすものです。
・市民の知る権利、報道の自由は、民主主義社会の根幹にかかわる問題だと考えています。
・2013年に多くの国民の反対を押し切り制定された特定秘密保護法では、防衛、外交、テロ、スパイ行為の4情報が「特定秘密」に指定されました。現在でも、特定秘密保護法に、私たちは強く反対をしています。私たちは、日本が「監視社会」や「密告社会」になることに反対します。
・公共の利害にかかわることがらを公表したジャーナリストが、懲役5年以下の処罰の対象となる可能性があります。また、情報を扱う担当者が罰則を恐れて情報提供に消極的になると、取材そのものが成立しなくなり、知る権利が失われます。
・何が秘密なのか不明確(恣意的)なので、ジャーナリストも情報にかかわる担当者も秘密の範囲を認識できません。
・秘密が増えることによって、重要な意思決定が少人数で、また非公開でおこなわれるようになります。また、その決定の是非について検証ができなくなります。民主的なプロセスが損なわれ、独裁的な組織運営が行われるようになります。
・国際NGO「国境なき記者団」が公表する「2024年の日本の報道の自由度が、世界70位になった」と5月4日に報じられています。G7諸国中、最下位とのことです。
2.企業や労働者の自由な経済活動を損ね、統制経済への道を開くものです。
・米国および同志国といわれる国々の中国に対する経済軍事ブロックに日本が強く組み込まれることに、私たちは反対します。
・軍事技術をふくむ先端技術情報の共有を名目にした国家秘密の拡大は、日本の産業全体の利益につながりません。
・安全保障がすべてに優先されれば、日本経済の国家統制が強化され、軍産学共同の軍事国家化が進むこ
とになります。
・この法律は、安全保障体制の名目で食糧生産を統制し、ハイテク産業に置き換える食糧農業農村基本法とひとつながりのものです。
・政府とつながる一部の企業だけが優遇され、独占が強まり、他の多くの企業のビジネスチャンスや開発研究の機会が失われます。また、中小の企業は大きな企業から強い支配を受けることになります。
・企業で働く人々の自由で創造的な活動の社内風土が損なわれ企業活動は衰弱します。また、秘密を保持する業務に携わる適性評価対象者の業務内容を管理することが困難になります。
・仮に、高度な先端技術が各国から共有された場合でも、統制強化により、担い手が育たなかったり、能力のある人が海外へ流出してしまい、それを活かすことができない企業の力の低下も考えられます。
・経済分野に拡大することで秘密は加速度的に増えることになります。「秘密の量が増えることで、秘密の管理のために煩雑で不必要な作業が増え、秘密が多すぎて合理的効率的な意思決定が損なわれる」ことがいわれています。
・日本は中国と多くの経済関係を持っています。その関係が損なわれれば、失う経済的利益は計り知れ
ません。
・他国から得た技術情報などで兵器を作り輸出することを経済活動の柱にすれば、日本は、「朝鮮特需以降は、軍需に頼らないで経済発展を遂げた国」という平和ブランドを失うことになります。対外的な信頼を失うことは、資源が乏しく輸出に頼る日本経済にとって大きな損失です。
・今日の国際状況の中で希望になるロールモデルを失うことは、地球規模での軍縮の進展にとってネガ
ティブな材料になります。日本が今後も「同盟国」アメリカに追随することになれば、将来もさらなる軍事的な支出をもとめられます。限られた財源を民間の幸福のために利用することができません。
・他国と先端技術を共有しより高度な研究をするためには、「セキュリティ・クリアランスが不可欠」という政府からの説明があります。それは、「適性評価を受けなければその研究や職場を失う」ことと表裏です。
・研究成果を公表することができなくなり、「秘密特許」に指定される研究成果は国家や企業にのみ利用されることになります。
・社会の発展のために研究をすることができなくなります。研究活動に誇りを持てなくなります。家族に対しても自身の仕事内容を話せなくなります。
・原子力発電などについて、政府が進める政策と異なる考えを持つ研究者は、研究対象の情報にアクセスしたり、公に研究をすることができなくなる可能性があります。
・適性評価対象者のみに隔離された研究環境や施設に囲い込まれることになることが予想されます。
・マンハッタン計画や日本海軍の戦艦や特攻兵器の開発は厳重な秘密保護の環境で行われました。研究から離れる自由も制限され、離れられても監視対象化におかれました。
・今日もその傾向がありますが、安全保障にかかわる研究や「稼げる研究」以外の分野の研究経費がますます大きく削減されます。
・秘密領域の拡大が進めば、研究してよいことと研究を禁じられることができると想定できます。
・今日においても一時期に比べ学術や研究の分野で日本のレベルは失われつつあるといわれています。これ以上の研究環境の悪化は、日本社会にとっても日本の経済にとっても望ましくありません。
4.政府の裁量権を強め、国会の役割を無視、否定する法案です。国民から反対のあった特定秘密保護法の改正を行わずに、この法律で秘密の領域に経済分野を加えています。
・この法案では何が重要経済安保情報なのか明かにされていません。世論の批判をうけた特定秘密保護
法では、少なくとも「何が特定秘密」なのか条文で項目が示されていました。この法案では、審議段階で「何が秘密」なのかまったくわかりません。
・この法案は、法律の成立後に、政府の裁量で「秘密」の対象や範囲を指定できるようにするものであり、審議を尽くしたうえで法律を作る立法府の役割を否定するものです。法案成立後に、次々に秘密の指定の範囲が拡大されないという保証は担保されていません。
・政府にフリーハンドを預けることは危険です。戦前戦中の日本政治や、今日、多くの人権問題を抱えている他国の例を見れば、そのことは明らかです。
・他国との対抗上、他国と同等かそれ以上の統制体制を作り軍備を拡大することは、両国の持続可能な社会の発展を損ない、自国のリスクを増大させることにつながります。
・この法案は、日本国憲法前文の趣旨を否定するものです。
5.セキュリティ・クリアランス(適性評価)法案ともいわれるこの法案は、公務員、民間企業従業員、研究者の身辺調査法案というべきものです。適性評価の対象事項の一つ、「重要経済基盤毀損活動(=外国の利益を図る目的で行われ、かつわが国や国民の安全を害するおそれのある政治的活動など)との関係に関する事項」は、その人のすべての個人情報の調査に拡大される可能性があります。
・調査範囲は、次の項目です。
①重要経済基盤毀損活動(=外国の利益を図る目的で行われ、かつわが国や国民の安全を害するおそれのある政治的活動など)との関係に関する事項 ※評価対象者の家族および同居人の氏名・生年月日・国籍(過去に有していた国籍を含む)・住所を含む
② 犯罪および懲戒の経歴に関する事項
③ 情報の取り扱いに係る非違の経歴に関する事項
④ 薬物の濫用および影響に関する事項
⑤ 精神疾患に関する事項
⑥ 飲酒についての節度に関する事項
⑦ 信用状態その他の経済的な状況に関する事項
・適性評価の対象になる想定人数や、適性評価を行う組織体制や規模が具体的に明示されていません。
・調査には本人同意が必要とされていますが、従業員が業務に関連して情報を漏らした場合は企業に罰金を科されるため、同意しなかった場合には懲戒処分や配置転換などの不利益な取り扱いも懸念されます。
・「適性評価結果や同意拒否の目的外利用の禁止」が衆議院での附帯決議に盛り込まれましたが、「通報・相談窓口を検討し、運用基準等において必要な措置を講ずること」とあるばかりで、職場での権利回復についての具体的な方策が示されていません。「部落地名総鑑」が公開されるという事件は2000年代になっても繰り返されています。
・適性評価での家族の本人同意は不要となっており、本人が知らぬ間に調査が行われることが想定されます。家族に、「防衛装備の部品を製造する部署についたから、家族の国籍等の情報を職場に伝えました。国の審査機関に提出され私の適性が評価されます」と伝えるか、家族に黙って申告するという選択をしなくてはなりません。
・「同盟国」「同志国」以外の国籍を持つ外国の人との結婚は大きなリスクを伴うことになります。国際情勢の変化により、「同盟国」「同志国」は変わる可能性があります。その定義はとても曖昧です。
・憲法13条(個人の尊重)、同14条(法の下の平等)「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」に抵触する恐れがあります。
・労働者保護の観点からも重大な問題があり、憲法19条(内心の自由)や同21条(表現の自由)も侵す危険な法案です。
6.適性評価が内閣総理大臣の直轄の機関により収集され保管されることには危険があります。
・歴史上、そして今日も、多くの国の首脳が、組織的な諜報で知りえた個人の身辺調査情報を自身の権力保持のために利用していることが指摘されています。日本においても、有力政治家の排除や政府から企業経営者への圧迫の可能性があります。
・捜査機関が、日本国憲法や日本の現行の統治システムに忠実であり、常に公正で合理的な活動をするとは限りません。情報の一源化が捜査機関の権能肥大につながり、憲法下での統治のコントロールを逸脱する危険があります。
・情報のデータベース集約は、システムダウンやハッキングや職員による漏えいなどで、国家や企業にとってリスクが大きいと考えられます。機微情報の集約こそが外交関係や安全保障上のリスクです。個人情報の海外への流出や、海外の機関から共有が求められることも想定されます。そのときに、国家が個人を守れるかどうか保証はありません。
・今後、マイナンバーカードの運用についての見直しがされて、適性評価に使われる可能性があります。
・前記の恐れのある制度や組織の概要を国会で具体的に示さない政府への信頼ができません。
・私たちは、ことさらに日本政府や情報機関だけを批判し敵視するつもりはありません。どこの国の政府や情報機関に対してでも、手放しの信頼は持つべきではないと考えます。
・機械メーカー「大川原化工機」の社長ら3人が、軍事転用可能な機器を無許可で輸出したとする外為
法違反容疑で逮捕、起訴され、後に起訴が取り消された事件がおきました。この事件のような捜査権の濫用による重大な人権侵害を続発させる恐れがあり、権力の暴走を加速させかねません。
・この法律が施行されれば、秘密指定された経済情報を入手することは困難になり、このような事件の
弁護は難しくなります。救済されない冤罪事件が多発することが予想されます。
8.附帯決議に上げられた国会に対する情報監視委員会の役割が不十分です。
・特定秘密保護法では、チェック機能として、政府による秘密指定が妥当かどうかを審査する情報監視審査会が衆参両院に設置されました。しかし、これまで情報監視審査会によって秘密指定が解除された例はなく、実効性が疑われます。
・今回の法案は衆議院での修正協議で、政府・与党が運用状況を定期的に国会に報告する仕組みが導入されていますが、チェック機能として極めて不十分です。
・特定秘密保護法に際して国連機関が求めた「政府から独立した監視機関」の設置は、この法案でも想定されていません。
9.衆議院の参考人質疑で同法案の立法事実が存在しないことが明らかになりました。
・政府は、「日本が欧米との国際共同研究や外国政府からの受注を可能にするためには、欧米のようなトップシークレット、シークレット、コンフィデンシャル級という重層的な秘密保持体制が必要だが、日本にはこのうちコンフィデンシャル級の秘密に対応する法制度がなく、それに対応するのがこの法案である」と説明してきました。
・ところが、衆議院の参考人質疑で、「英仏ではこのコンフィデンシャル級の秘密については既に廃止され、アメリカでも廃止の方向で検討されている」ことが明らかにされました。この点について、高市大臣も認めています。
・法案の立法事実(必要性・正当性の根拠)は存在しないことが明らかになりました。
・この法案は、市民の知る権利、報道の自由という民主主義社会の根幹にかかわる重大な問題です。良 識の府といわれる参議院の存在意義や、政府の政策をチェックする野党やメディアの役割が問われています。
◆日本弁護士連合会
重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案についての会長声明
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2024/240313_2.html
◆秘密保護法対策弁護団
リーフレット 経済安保版 秘密保護法案に反対を!
https://drive.google.com/file/d/1znz1SZ3Gv-0F8lVLjfNxCBO1Ie6Wk6EY/view?usp=sharing